『鉄道要覧』は日本の鉄道・軌道の線名・区間・キロ程等を網羅的に記載した、国土交通省鉄道局監修、㍿電気車研究会・鉄道図書刊行会発行の書物である。日本の鉄道・軌道の現況を把握するため鉄道要覧(平成28年度版)を購入した(図1)。ところが、この鉄道要覧(平成28年度版)には一見して理解しがたい謎の記述が多くみられる。そのようなものについて考察する。以下で述べる鉄道要覧に関する事柄は特記がないものはすべて平成28年度版についてのものである。
2ページの凡例
節には次のように書かれている。
この要覧は,判明しているものはなるべく現況によるもの(平成28年7月末時点についての現状について記載)であるが,運輸局別開業者数・キロ程表,運輸局別営業キロ一覧表,鉄道・軌道事業者の主な株主一覧表については,平成28年3月31日現在で整理した。
平成28年3月31日現在で整理した
と書かれているものは以下の4つの表である。
運輸局別開業者数・キロ程表(平28.3.31現在)(9ページ)
運輸局別鉄道・軌道営業キロ一覧表(平28.3.31現在)(10〜11ページ)
運輸局別索道営業キロ一覧表(平28.3.31現在)(10〜11ページ)
鉄道・軌道事業者の主な株主一覧表(平成28年3月31日現在)(250〜254ページ)
これらの表を除く残りすべて(3〜8・12〜249・255〜455ページ)の記述は、2016(㍻28)年7月末時点についての現状だと言っているように読める。
しかし鉄道の種類(普通鉄道、懸垂式鉄道など)ごとの最初の黄色いページ(17・65・181・195・199・203・211・215・233・237・241・247ページ)にある経営者数とキロ数の表には右上に(平28.3.31現在)
と書いてある。2016(㍻28)年7月末時点についての現状ではなかったのか。
58〜63ページに日本貨物鉄道株式会社(JR貨物)の各路線についての情報が記載されている。JR貨物では2016(㍻28)年4月1日に伊勢鉄道線の河原田〜津間(22.3キロ)と紀勢線の亀山〜鵜殿間(176.6キロ)の第2種鉄道事業が廃止された。この2線は表に記載されておらず、該当する場所には隙間が空いている。紀勢線に関しては摘要
欄だけ残っているので、解読するのは非常に難解である。289ページのJR貨物の路線図にもこの2線は描かれていない。
17ページのJR7社合計のキロ程の表は右上に(平28.3.31現在)
と書いてあるが、開業線
の第2種
のキロ数
が7,965.0
(東日本8.7、西日本28.6、貨物7927.7を足したものに等しい)となっており、やはりJR貨物の伊勢鉄道線・紀勢線のキロ程は含まれていない(図3)。2016(㍻28)年4月1日廃止の路線は2016(㍻28)年3月31日の時点ではまだ廃止されていないはずであるが、キロ程は廃止に先立って0になったのだろうか。なお『貨物時刻表2016』(2016年3月26日ダイヤ改正版)の211〜212ページにある「JR貨物全営業線」の表ではこの2線のキロ程も含まれていた。
167ページの水島臨海鉄道株式会社の表では、西埠頭線の項に廃止日(予定)平28.7.15(平28.3.10届出)
と書いてあり、キロ程の合計は西埠頭線(0.8キロ)を含んだものになっている。266ページの中国運輸局管内の路線図にも西埠頭線が描かれている。2016(㍻28)年7月末時点についての現状であれば2016(㍻28)年7月15日廃止の路線はすでに廃止されているはずであるが、まだ廃止されていないような記述になっている。これは廃止予定であることは判明していたが本当に予定どおり2016(㍻28)年7月15日に廃止されたかどうかは判明していなかった、ということなのだろうか。
しかし351ページの水島臨海鉄道の路線図では西埠頭線は描かれておらず、よくわからない。
17〜63ページにJR7社の各路線についての情報が記載されている。その中のキロ程の謎について述べる。
26〜27ページに東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)の常磐線の日暮里〜岩沼間のキロ程が343.7、そのうち相馬〜岩沼間のキロ程が36.7と記載されている。また、60ページに日本貨物鉄道株式会社(JR貨物)の常磐線の三河島〜岩沼間のキロ程が342.5と記載されている。これらは2016(㍻28)年12月10日に相馬~浜吉田間が復旧し駒ヶ嶺〜浜吉田間が移転したことに伴いキロ程が変更された後のものである。鉄道要覧ではすでにキロ程が変更済だったという見解のようである。2011(㍻23)年3月12日〜2016(㍻28)年12月9日は運休していて旧線も新線も営業していなかったのだから、キロ程の変更が運休期間中のいつであったのかは大した問題ではないのだろう。
49ページに図2のように西日本旅客鉄道(JR西日本)の開業線の種別ごとの合計のキロ程が記載されている。第1種は4985.6
、第2種は28.6
、第3種は(28.0)
、第1種と第2種の計
は5014.2
となっている。「4985.6 + 28.6 = 5014.2」という足し算自体は正しい。ところが40〜49ページに記載されている路線別のキロ程を合計すると、第1種鉄道事業区間は4978.5キロ、第1種と第2種の合計は5007.1キロになる。JR西日本のウェブサイトの「企業概要」および「データで見るJR西日本」にも「5,007.1キロメートル」(2016年4月1日現在)と書いてある。49ページの値はそれぞれこれらより7.1キロ長い。これはいったいどういうことなのか。
JR西日本の第1種鉄道事業区間のキロ程は近年では以下のような変更があった。
①②は吹田貨物ターミナル駅開業に先立って吹田貨物ターミナル〜吹田間(1.5キロ)の線路戸籍がそれまでの東海道線1本から東海道線(JR京都線)と東海道線(北方貨物線)と片町線(城東貨物線)の3本に分裂したことに伴うものである。ここで「①と②のどちらか一方」と③と④を足すと−7.1になる。49ページに記載されている値はおそらく「①と②のどちらか一方」と③と④を反映していないものなのだろう。なぜそのようなものを載せているのか理由はわからない。
前年の鉄道要覧(平成27年度版)に関する同じような疑問点がヤフーなんとか袋に載っていた。→「鉄道要覧(平成27年度)の西日本旅客鉄道(JR西日本)の営業キロの合計が合いません。」
17〜63ページはJR7社に関するページである。その先頭である17ページに図3のように合計のキロ程の表があり、その中のいちばん上に開業線
の第1種
のキロ数
が20,154.8
と書かれている。この値も謎である。19〜63ページに記載されている各社の各路線のキロ程を合計すると、第1種鉄道事業区間は20,147.4キロになるが、17ページの値はそれより7.4キロ長い。7.4キロのうち7.1キロの原因が前節と同じだとしても、まだ0.3キロ長い。JRの第1種鉄道事業区間が0.3キロ減った出来事といえば、2014年10月1日にJR東日本の吾妻線のキロ程変更(−0.3キロ)があったが、それを反映していない値を載せているのだろうか。
以上のことを踏まえてJR7社のキロ程をまとめると、表1のようになる。ここで計
は第1種と第2種を合計したものであり、第3種のキロ程は含んでいない。また、鉄道要覧に計
が記載されているのはJR東日本とJR西日本のみである。
各路線のキロ程を合計したものと合計欄に書かれているものとが一致しないというのは不可解である。
会社 | 合計の欄に書いてあるキロ程 | 各路線のキロ程を合計したもの | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
第1種 | 第2種 | 第3種 | 計 | 掲載㌻ | 第1種 | 第2種 | 第3種 | 計 | |
JR北海道 | 2568.7 | 22 | 2568.7 | 2568.7 | |||||
JR東日本 | 7449.2 | 8.7 | 7457.9 | 35 | 7449.2 | 8.7 | 7457.9 | ||
JR東海 | 1982.0 | 39 | 1982.0 | 1982.0 | |||||
JR西日本 | 4985.6 | 28.6 | (28.0) | 5014.2 | 49 | 4978.5 | 28.6 | (28.0) | 5007.1 |
JR四国 | 855.2 | 52 | 855.2 | 855.2 | |||||
JR九州 | 2273.0 | 57 | 2273.0 | 2273.0 | |||||
JR貨物 | 40.8 | 7927.7 | 63 | 40.8 | 7927.7 | 7968.5 | |||
計 | 20154.8 | 7965.0 | 17 | 20147.4 | 7965.0 | (28.0) | 28112.4 |
また、開業線とは別に未開業線も記載されている。未開業線のキロ程に矛盾はないが、開業線の第1種のキロ程が謎の値であるため、開業線と未開業線の第1種を合計したキロ程も20,156.4
という謎の値になっている。これは路線別に合計した値は20,149.0である。
269〜291ページにJR7社の全駅名を表示した
というJRの各社別線路図
が載っている。これに関する謎について述べる。
286ページのJR九州の路線図にはバルーンさが駅が記載されていない(図4)。一方、臨時駅でも、ラベンダー畑駅や偕楽園駅や池の浦シーサイド駅や津島ノ宮駅や田井ノ浜駅は載っている。なぜ扱いが違うのかわからない。バルーンさが駅だけは営業期間外はいちいちいったん廃止しているのだろうか。
274〜277ページのJR東日本の路線図では、表2および図5のように一部の路線の支線の区間が23〜35ページの表の内容と一致していないように見える。
路線名 | 表 | 路線図 | ||
---|---|---|---|---|
支線の区間 | 掲載㌻ | 支線の区間 | 掲載㌻ | |
東海道線 | 浜松町〜浜川崎 | 23 | 品川〜浜川崎 | 277 |
鶴見線 | 武蔵白石〜大川 | 24 | 安善〜大川 | 277 |
常磐線 | 三河島〜隅田川〜南千住 | 27 | 三河島〜隅田川〜北千住 | 277 |
また、鶴見線に関してはJR貨物も同様である。(61・290ページ。引用省略。)
なぜこのような図になっているのか。東海道貨物線の起点は昔は品川駅だったとか、鶴見線の大川駅発着の列車は武蔵白石駅のホームがないところを通る(ので止まらない)などという話は、理由になりそうもない。金山〜名古屋間や今宮〜新今宮間や小倉〜西小倉間と同様に、武蔵白石〜安善間は二重戸籍(武蔵白石〜大川間で安善を経由している)とでもいうのだろうか。そんな話は聞いたことがないが。
24ページのJR東日本の表に武蔵野線の鶴見〜西船橋間(100.6キロ)と西浦和〜与野間(4.9キロ)が記載されている。しかし276〜277ページの路線図では西浦和〜与野間に該当する場所に線が描かれていない(図6)。
また、武蔵野線の新小平〜国立間、南流山〜北小金間、南流山〜馬橋間はJR東日本の第1種鉄道事業区間であるが営業キロがなく24ページの表には記載されていないが、JR東日本のウェブサイトの会社要覧の「付表」には欄外に区間が記載されている。277ページの路線図にはこのうち南流山〜北小金間と南流山〜馬橋間は線が描かれているが、新小平〜国立間には線がない(図6)。
これらはどのような違いがあるのか。なぜ西浦和〜与野間と新小平〜国立間だけ路線図に描かれていないのか、説明が見当たらないのでわからない。
38ページのJR東海の表に城北線(勝川〜枇杷島間、11.2キロ)が記載されている。しかし278ページの路線図では該当する場所に、他社線と同じ書式で東海交通事業(第2種鉄道事業者)の線は描かれているがJR東海(第1種鉄道事業者)としての太い線が描かれていないように見える(図7)。城北線だけJR東海の線の書式が他社線と同じになっているのだろうか。凡例の説明がないのでわからない。
いわゆる梅田貨物線(東海道線の一部)はJR西日本の第1種鉄道事業区間であるが営業キロがなく40ページの表には記載されていないが、282ページの路線図には図8のように線が描かれている。しかしこの図では起点がどこなのかはっきりしない。吹田貨物ターミナル駅から左上に伸びる線が1本しかないので、JR西日本の梅田貨物線も吹田貨物ターミナル駅起点に変わったのか、吹田駅起点のまま放置されているのか、判別できない。なお第2種鉄道事業者であるJR貨物の梅田貨物線の区間については61ページの表で起点が吹田貨物ターミナル駅になっているので謎はない。
そして図では梅田貨物線は新大阪駅を通っていない。これは、東海道線の大崎駅とか高崎線の北藤岡駅と同様に、設備上は構内を通っているが路線図上では経由しないことになっている、という意味なのだろうか。
3次元空間で立体交差している路線を2次元の紙面にどのような位置関係で表示するかは悩ましい問題である。鉄道要覧では例えば図9や図8のような箇所がある。現実の線路を真上から見れば、香椎線は和白〜香椎間で鹿児島線の福工大前〜九産大前間と立体交差して九産大前駅の東側を通るし、筑肥線は肥前久保〜山本間で唐津線の相知〜本牟田部間と立体交差して本牟田部駅の東側を通るし、東北新幹線は仙台〜古川間で東北線の岩切〜新利府間と立体交差して新利府駅の西側を通る。また、片町線(城東貨物線)は吹田駅を経由することになっているのかいないのか知らないが、なっていないのであれば、鴫野〜吹田貨物ターミナル間で東海道線の吹田〜東淀川間と立体交差して吹田駅の北側を通る。交差が増えると煩雑になるので、これらの箇所では図を簡略化するために真上ではない方向から投影した図にしているのかもしれない。
ところが図10では、東海道線(貨物線)の鶴見〜横浜羽沢間が新子安駅の下を通って東海道線(旅客線)の新子安〜東神奈川間と交差するようにねじって描かれている。ここは真上から見れば、東海道線(貨物線)は東海道線(旅客線)の鶴見〜新子安間と立体交差するので、線をねじる必要性は感じないが、なぜわざわざこのような遠回りの線になっているのだろうか。しかもこの路線は真上から見れば横浜線の大口〜菊名間と立体交差するが、図ではなぜか東神奈川〜大口間と交差するように描かれている。
また、東北線(貨物線)の宮城野〜東仙台間は真上から見れば仙石線の陸前原ノ町〜苦竹間と立体交差するが、図9㊨では3駅もずれた仙台〜榴ヶ岡間と交差している。何が言いたいのかわからない。
図11はJR西日本の路線図である。㊧は天王寺付近である。南海天王寺支線の亡霊のようなものが見えるがここはJR西日本の図なので気にしないことにして、ここでの謎は杉本町駅から右上に出ている線である。昔は八尾駅から杉本町駅まで関西線(阪和貨物線)が通っていたがすでに廃止されたはずである。また、㊨は京都付近である。梅小路駅と丹波口駅を結ぶ線がある。昔は東海道線(貨物線)がここを通っており、JR西日本の営業キロがない第1種鉄道事業区間であったが、すでに廃止されたはずである。なぜそのような線を描いているのか、実は廃止されていないのだろうか。
図12は四国旅客鉄道(JR四国)の坂出付近の路線図である。坂出駅から児島駅に向かって宇多津駅の右を通っている線は何の線だろうか。余談だがサンライズ瀬戸やマリンライナーが通っているあそこは宇多津駅構内であり、路線図上も宇多津駅を経由していることになっているので、宇多津駅を通らない線にはならないはずである。
図13はJR東日本の大船渡付近の路線図である。なぜか線路上にBRTのバス停が記載されている。気仙沼線BRTと大船渡線BRTは、JR東日本がわざわざバス事業者になって運営している路線バスであり、鉄道ではない。それを営業上はなるべく鉄道と同じように扱っているだけである(普通運賃は打ち切り計算だが)。これは鉄道要覧であってJR要覧ではないのだから、ここにBRTのバス停を記載する必要はないように思える。
もしかしたら鉄道事業法に基づいて鉄道施設を変更して線路を舗装したのかもしれないが、そうだとしても奇跡の一本松バス停なんて線路と全然関係ない離れたところにあるのだから、そのようなものがこの路線図の線路上に存在すると混乱を招く。
図14はJR貨物の名古屋付近の路線図である。なぜか線路上に刈谷オフレールステーション(ORS)が記載されている。オフレールステーションはトラック輸送の基地であり、鉄道の駅ではない。それを営業上は鉄道と同じように扱っているだけである。刈谷オフレールステーションは名古屋貨物ターミナル駅との間でトラック便が運行されているが、豊橋・大府間の東海道線上に何かJR貨物の施設があるわけではないし、JR貨物の駅数にも計上されていない。これは鉄道要覧であってJR要覧ではないのだから、ここに刈谷オフレールステーションを記載する必要はないように思える。
豊橋オフレールステーションは『貨物時刻表2016』で車扱臨時取扱駅にもなっているしJR貨物の駅数に計上されているので記載した方が良いが、刈谷オフレールステーションなんて線路と全然関係ない離れたところにあるのだから、そのようなものがこの路線図の線路上に存在すると混乱を招く。
9ページに図15のように「運輸局別開業者数・キロ程表」が記載されている。鉄道
のキロ程
に関して、計
の行には7,372.2
と書かれている。ところが、ちょっと計算してみればわかるが各運輸局
に記載されている数字を合計したものは7,423.9であり、一致しない。また、図15からはみ出していて写っていないが、いちばん下の計
の行において鉄道
のキロ程7,372.2
と軌道
のキロ程504.7
を足したものが計
の列のキロ程7,928.6
と一致しない。
単一のページ内のこんな小さな表で合計が合わないとはいったい何事だろうか。この表は、計
の行の鉄道
の列のキロ程を7,372.2から7,423.9に変えれば縦も横もつじつまが合う表になる。また、65〜213ページに記載されている各事業者の路線ごとの第1種開業線のキロ程をすべて足したものも7,423.9になる。表に載っている値はそれより51.7キロ短い。
ところで、2015(㍻27)年12月6日に開業した仙台市交通局東西線(鉄道13.9キロ)と2016(㍻28)年3月26日に開業した道南いさりび鉄道道南いさりび鉄道線(鉄道37.8キロ)のキロ程を合わせると51.7キロである。この2線を内訳には含むが計
には含まないのだろうか。そうならそうだと書いておいてほしい。
10〜11ページに図16のように「運輸局別鉄道・軌道営業キロ一覧表」が記載されている。これは図15の運輸局別のさらなる内訳として事業者別のキロ程が加わったものである(つまりこれがあれば9ページの表はいらない)。前節と同様に、この表でも鉄道
の計
が7,372.2
と書かれている。ここは7,423.9でなければ表内でつじつまが合わない。やはり同様に計
には仙台市交通局東西線と道南いさりび鉄道道南いさりび鉄道線を含めないのだろうか。意図がよくわからない。
また、近畿運輸局の行において、鉄道の事業者別のキロ程を合計すると1,159.8キロになるが鉄道計欄は1,222.8キロと書かれている。そこで各事業者について路線ごとのキロ程と比較したところ、鉄道計欄の値には矛盾がなく、事業者別のキロ程のうち近畿日本鉄道(近鉄)のキロ程に不整合があった。
148〜151・189・226・262・264・340〜341ページの記載に基づき近鉄の第1種・第2種鉄道事業および軌道事業の運輸局別キロ程をまとめると表3のようになる。中部運輸局と近畿運輸局の境界の場所は直接具体的には書かれていないが、普通鉄道の運輸局ごとのキロ程(中部216.4、近畿276.3)が151ページに書かれているので、それをもとに境界の場所を計算すると、三本松〜赤目口間のおそらく奈良・三重県境と同じ場所になった。
種類 | 路線 | 区間 | キロ程 | 管轄地方運輸局 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
鉄道 | 普通鉄道 | 山田線・名古屋線・鈴鹿線・湯の山線・志摩線・鳥羽線の全区間 | 168.4 | 216.4 | 216.4 | 中部運輸局 | |
大阪線 | 赤目口〜伊勢中川 | 44.9 | |||||
三本松〜赤目口(4.3キロ) | 3.1 | ||||||
1.2 | 276.3 | 279.6 | 近畿運輸局 | ||||
大阪上本町〜三本松 | 59.7 | ||||||
難波線・奈良線・橿原線・天理線・信貴線・南大阪線・吉野線・長野線・京都線・生駒線・田原本線・道明寺線・御所線の全区間 | 201.7 | ||||||
けいはんな線 | 鉄軌分界点〜学研奈良登美ヶ丘 | 13.7 | |||||
鋼索鉄道 | 生駒鋼索線・西信貴鋼索線の全区間 | 3.3 | 3.3 | ||||
軌道 | けいはんな線 | 長田〜鉄軌分界点 | 5.1 | 5.1 | 5.1 |
このように、近畿運輸局管内の近鉄の第1種・第2種鉄道事業のキロ程は279.6キロでなければならない。ところが10ページの近畿運輸局の鉄道の◆◇近畿日本鉄道
のところには図17のように216.6
と書いてある。この謎の値は何だろうか。
表3の近畿運輸局の鉄道のキロ程の中にある数字のうち、1.2と201.7と13.7だけを足すと216.6になるので、それと何か関係があるのかもしれないが、それ以上はわからなかった。
65〜180ページは普通鉄道(JRを除く)に関するページである。その先頭である65ページに図18のように合計のキロ程の表があり、その中にキロ数
に関して、開業線
の第1種
が6,834.9
、開業線
の第2種
が392.8
、未開業線
の第1種
が63.0
と書かれている。これらの値も謎である。
開業線については、67〜180ページに記載されている各社の各路線のキロ程を合計すると、第1種は6,751.5、第2種は527.9になる。65ページの値はそれより第1種が83.4キロも長く、第2種が135.1キロも短い。そして第1種と第2種を合計すると51.7キロ短い。
合計の51.7キロ差の原因が前節や前々節と同じであるとすれば、残りは第1種と第2種の合計は合うものの内訳に135.1キロの違いが生じる。
普通鉄道(JRを除く)の種別は近年では以下のような変更があった。
この4つを合計すると第1種が135.1キロ減り第2種と第3種がそれぞれ135.1キロ増える。65ページに記載されている値はおそらくこれらを反映していないものなのだろう。なぜそのようなものを載せているのか理由はわからない。
未開業線については、67〜180ページに記載されている各社の各路線のキロ程を合計すると、第1種は57.9キロになる(羽沢(仮称)〜日吉間(10.0キロ)は東京急行電鉄株式会社と相模鉄道株式会社で重複計上)。65ページの値はそれより5.1キロ長い。これはどのように計算した値なのかさっぱりわからない。
218ページに軌道の富山地方鉄道株式会社の表があり、支線のキロ程が1.0キロとなっている。一方305ページの路線図では図19のように、支線のうち電鉄富山駅・エスタ前〜新富町間のキロ程が判然としない。ここは富山駅南北接続線ができる前はたしか0.3キロだったはずで、今も0.3キロであれば支線全体の1.0キロとつじつまが合う。しかし何の先入観もなく図19を見ると、電鉄富山駅・エスタ前〜支線接続点間が0.3キロ、支線接続点〜新富町間が0.3キロで、電鉄富山駅・エスタ前〜新富町間は合わせて0.6キロと言っているように見える。
富山地方鉄道のウェブサイトの「→ 距離表はこちら」とも合わないのでよくわからない。富山駅南北接続線ができたからといって支線の電鉄富山駅・エスタ前〜新富町間の距離が2倍になるのも不思議な話である。2つある「0.3」は両方とも電鉄富山駅・エスタ前〜新富町間のキロ程であって大事なことだから2回書いてあるのだろうか。
146・224〜225ページに大阪市交通局の地下鉄の表があり、345ページに大阪市交通局の路線図がある。一部の駅間では両者に記載されたキロ程が一致しない。
前者の表に記載されているキロ程は「大阪市高速鉄道及び中量軌道営業キロ程」に規定されたキロ程、後者の路線図に記載されているキロ程は「大阪市高速鉄道及び中量軌道乗車料条例施行規程」第39条第3項に基づき「大阪市高速鉄道及び中量軌道乗車料条例施行規程取扱細則」第30条に規定された特定キロ程であり一般の時刻表に載っているキロ程と同じものある。しかしそのような説明はなく、知っている人にしかわからない不親切な記載である。
同様に2種類のキロ程が存在する東武小泉線は、表も路線図も鉄道事業許可上のキロ程で統一されている。なぜ大阪市交通局は統一されていないのだろうか。
207・243ページにゆりかもめの表があり、314ページにゆりかもめの路線図がある。表4のように、一部の駅間では両者に記載されたキロ程が一致しない。
これは前節の大阪市交通局と同様にもともと別物なのか、あるいは他の理由で一致していないのか、説明がないのでわからない。
路線名 | 区間 | キロ程 | |
---|---|---|---|
路線図 | 表 | ||
東京臨海新交通臨海線 | 新橋〜汐留 | 0.4 | 2.2 |
汐留〜竹芝 | 1.2 | ||
竹芝〜日の出 | 0.6 | ||
日の出〜芝浦ふ頭 | 0.9 | 4.7 | |
芝浦ふ頭〜お台場海浜公園 | 3.9 | ||
お台場海浜公園〜台場 | 0.8 | 2.3 | |
台場〜船の科学館 | 0.6 | ||
船の科学館〜テレコムセンター | 0.8 | ||
テレコムセンター〜青海 | 1.0 | 2.1 | |
青海〜国際展示場正門 | 1.1 | ||
国際展示場正門〜有明 | 0.7 | 0.7 | |
有明〜有明テニスの森 | 0.7 | 2.7 | |
有明テニスの森〜市場前 | 0.8 | ||
市場前〜新豊洲 | 0.5 | ||
新豊洲〜豊洲 | 0.7 |
231ページに鹿児島市交通局の表があり、361ページに鹿児島市交通局の路線図がある。表5のように、一部の駅間では両者に記載されたキロ程が一致しない。
これは前々節の大阪市交通局と同様にもともと別物なのか、あるいは他の理由で一致していないのか、説明がないのでわからない。
路線名 | 区間 | キロ程 | ||
---|---|---|---|---|
路線図 | 表 | |||
第一期線 | 武之橋〜新屋敷 | 0.5 | 1.0 | 3.0 |
新屋敷〜甲東中学校前 | 0.2 | |||
甲東中学校前〜高見馬場 | 0.3 | |||
高見馬場〜天文館通 | 0.4 | 0.5 | ||
天文館通〜いづろ通 | 0.3 | 0.6 | ||
いづろ通〜朝日通 | 0.3 | |||
朝日通〜市役所前 | 0.2 | 0.3 | ||
市役所前〜水族館口 | 0.2 | 0.6 | ||
水族館口〜桜島桟橋通 | 0.2 | |||
桜島桟橋通〜鹿児島駅前 | 0.2 | |||
第二期線 | 高見馬場〜加治屋町 | 0.2 | 0.8 | |
加治屋町〜高見橋 | 0.4 | |||
高見橋〜鹿児島中央駅前 | 0.2 | |||
谷山線 | 武之橋〜二中通 | 0.2 | 6.1 | |
二中通〜荒田八幡 | 0.4 | |||
荒田八幡〜騎射場 | 0.4 | |||
騎射場〜鴨池 | 0.5 | |||
鴨池〜郡元 | 0.3 | |||
郡元〜涙橋 | 0.4 | |||
涙橋〜南鹿児島駅前 | 0.5 | |||
南鹿児島駅前〜二軒茶屋 | 0.7 | |||
二軒茶屋〜宇宿1丁目 | 0.4 | |||
宇宿1丁目〜脇田 | 0.3 | |||
脇田〜笹貫 | 0.6 | |||
笹貫〜上塩屋 | 0.8 | |||
上塩屋〜谷山 | 0.7 | |||
唐湊線 | 鹿児島中央駅前〜都通 | 0.4 | 0.6 | 2.7 |
都通〜中洲通 | 0.2 | |||
中洲通〜市立病院前 | 0.4 | 0.6 | ||
市立病院前〜神田(交通局前) | 0.2 | |||
神田(交通局前)〜唐湊 | 0.3 | 0.5 | ||
唐湊〜工学部前 | 0.2 | |||
工学部前〜純心学園前 | 0.2 | 1.0 | ||
純心学園前〜中郡 | 0.3 | |||
中郡〜郡元 | 0.5 | |||
合計 | 12.6 |
また、世間の多くのウェブサイトでは鹿児島市交通局の軌道のキロ程は13.1キロと書かれていて、鹿児島市交通局のウェブサイトでも13.1 km (平成25年4月1日現在)
となっている。最近0.5キロ縮んだのだろうか。
215〜231ページは軌道(「○○式」がつかない普通の軌道)に関するページである。その先頭である215ページに図20のように合計のキロ程の表があり、その中のいちばん上に開業線
のキロ数
が345.8
と書かれている。この値も謎である。217〜231ページに記載されている各社の各路線のキロ程を合計すると345.4キロになる。また、運輸局別や運輸局別事業者別の合計とつじつまが合うためにも345.4キロでなければならない。217ページの値はそれより0.4キロ長い。
例えば前節の鹿児島市交通局の0.5キロ縮小と2016(㍻28)年3月27日の福井鉄道の0.1キロ延伸を反映しないとこの数字になるが、軌道は他にもこまごまとキロ程が変わっているので、差異の内訳は違うかもしれない。特に路面電車のキロ程は節操なく変わるので把握しづらくて困る。
また、開業線とは別に未開業線も記載されている。未開業線のキロ程に矛盾はないが、開業線のキロ程が謎の値であるため、開業線と未開業線を合計したキロ程も347.0
という謎の値になっている。これは路線別に合計した値は346.6である。
217ページに札幌市交通局の表があり、1条線の起点が西4丁目
、都心線の起点が西四丁目
になっている。これは同一の駅のはずだが、路線によって駅名の表記が異なるのだろうか。しかし295ページの路線図は西4丁目
の表記しかなく、よくわからない。
それと同じページの函館市企業局の本線の起点は函館どっく前
と(小さい「っ」で)書かれている。あそこは大きい「つ」の「函館どつく前」だと思っていたが、軌道法上は「函館どっく前」で良いのだろうか。
図21は146ページの普通鉄道の北大阪急行電鉄株式会社(北急)の表である。未開業線として千里中央〜鉄軌分界点間1.3キロが記載されており、その建設費予(概)算額(百万円)
の欄に21,554,320
と書かれている。21兆5543億2000万円という信じられない金額である。北急を1.3キロ伸ばすのにどうしたら21兆円もかかるのか、誰がこんな見積もりを出したのだろうか。
227ページには軌道の北急の表があり、未開業線として鉄軌分界点〜(仮称)新箕面間1.2キロが記載されている。こちらは建設費予(概)算額(千円)
の欄に12,975,000
と書いてあり、129億7500万円である。鉄道区間と軌道区間とでほぼ同じ距離なのに金額が3桁も異なっているのは不可解である。鉄道区間の建設予定地に何かとんでもないものがあるのだろうか。
255〜268ページに全国運輸局別路線略図
という路線図が載っている。「運輸局別」と言っていながらどこが境界なのかこの図を見てもはっきりしない。運輸局の境界はすべて都道府県境なのかと思ったら、例えば野岩鉄道は全線が関東運輸局に計上されているので、そう単純でもないようである。
その他にいくつか謎があるので、それらについて述べる。
図22は北海道運輸局管内の路線図と東北運輸局管内の路線図である。ここにはなぜか北海道旅客鉄道北海道新幹線の新青森〜新中小国信号場間と木古内〜新函館北斗間が載っていない。
北海道運輸局管内や東北運輸局管内ではないということは、地方運輸局には任せられなくて国土交通省鉄道局の直轄だという意味だろうか。
あるいは、全国運輸局別路線略図
は(図22㊧③のように)細かいところは省略されているので、もしかしたら北海道新幹線のうち海峡線と重なっていないところも細かいところだとみなされて省略されているのかもしれない。
図23は近畿運輸局管内の大阪付近の路線図である。天王寺から左下に伸びる阪堺電気軌道上町線が、南海電気鉄道南海本線にぶつかっている。上町線のうち住吉〜住吉公園間は2016(㍻28)年1月31日に廃止された。廃止された後も近畿運輸局管内であるとはどういう意味だろうか。営業を終了しても設備が撤去されるまでは運輸局の管轄ということだろうか。
『鉄道要覧』がこのように謎に満ちた書物であることは予想外だった。購入するまでは、事実が明快に記載されたものだと思っていた。しかし実際はそうではなく、各所に潜んでいる謎を探す書物のようだ。
特に、3.1.3節で述べた65ページの「鉄道(普通鉄道)」の扉ページの表に至っては、表内に6つあるキロ数
の表示のうち「0」以外は何一つ合っていないという状況である。
他にも書ききれなかったことがある。
例えば3.1.2節で述べた10〜11ページの「運輸局別鉄道・軌道営業キロ一覧表」では、関東運輸局の欄に横浜高速鉄道の第3種のキロ程が記載されていない。中部運輸局の欄には近鉄の第1種+第2種と第3種が別々に記載されているのに、横浜高速は第2種のみが載っていて第3種が載っていない理由は謎である。
3.1.4節〜3.1.7節では、表と路線図でのキロ程の不一致について述べた。他にも217ページの表と295ページの路線図では、函館市企業局宝来・谷地頭線の宝来町〜谷地頭間のキロ程が一致しない。路面電車のキロ程は合わないのが普通なのだろうか。
また、57ページの九州新幹線の区間の順番が変だとか、231ページの唐湊線の波かっこの範囲が変だとか、そのような細かいことは省略した。
一方、索道はめんどくさいのでほとんど見ていない。索道についてもよく見れば謎が見つかるのではないかと思われる。
日本の鉄道・軌道の現況を把握することは思った以上に大変なことのようである。